夏夜に赤く輝くアンタレス

2002/07/18


 梅雨も終わりが近づき、蒸し暑い日が続いています。いよいよ夏がやってきたという雰囲気ですが、星空も梅雨の雲の向こうで夏模様に変わりつつあります。  みなさんは夏の星空と聞くと、どのような星を思い浮かべるでしょうか。天の川の両岸に輝く七夕の星たち、夏休みの旅行先で見上げた満天の星空、水辺に映る宵の明星など、みなさんそれぞれ思い出をお持ちではないでしょうか。

 

 私は夏の星というと、宵の南の空に赤々と輝いている星、さそり座の「アンタレス」(写真)を思い浮かべます。夏の夜空を見上げたとき、少し不気味にも見えるこの星の輝きが、蒸し暑さの残る夏の夜のイメージと重なって見えてくるように思います。 

 「アンタレス」という名前は、もともと「アンチ・アレス(火星の敵)」という呼び方でした。地球のすぐ外側を回る惑星「火星」の赤い色と似ており、その火星がアンタレスのすぐ近くを通るときなど、まさに宿敵同士の対決といった光景となるので、そのように名づけられたと言われています。

宇宙劇場で見た「さそり座」

 

 日本では、アンタレスのことをそのまま「赤星」、あるいは「酒酔い星」などと呼んでいましたが、少しユーモラスな見方としては、アンタレスの両側にある星を使い"へ"のような形を作り、「かごかつぎ星」というような呼び方もされていました。中心のアンタレスが真っ赤な顔をして天秤棒を担いでいるように見えたのでしょう(星図)。

 アンタレスの赤い色は、星の温度と関係があります。星の温度が低いと赤い色になり、温度が上がるにつれてオレンジ色から白色、そして青白くなります。赤いアンタレスは約3000度ほどの温度になります。また、こうした夜空に見える赤い星は、星の寿命が終わりに近づいた星で、大きく膨らんでいます。このアンタレスは太陽の230倍もの直径がある、とても大きな星です。

星図:さそり座の星の並び
(7月下旬20時頃南の空30度ほど)
 
 星空を見ていると、星にも明るい星や暗い星、赤い星や白い星というように、いろいろな表情があります。みなさんもアンタレスを見上げて、その表情を思い描いてみてください。

(天文係 安藤 享平)

2002年7月16日 読売新聞福島版 「星のある風景」より