ブラックホールが”見える”

2003/03/05


 

 まだまだ寒い日もありますが、春の予感のする季節になりました。 春の星空、特におとめ座やかみのけ座の辺りは、星の大集団である銀河がたくさん見えます。双眼鏡でも、光のしみのように見えるのもあります。 一方、大口径の望遠鏡による銀河の写真は、細かい模様まで見えて、とても美しいものです。 そんな春の銀河の一つ、りょうけん座にあるM106というカタログ番号のついた銀河は、その中心に超巨大ブラックホールを持っていると言われています。 あらゆるものを吸い込んでしまうブラックホールの話は、どこかで聞いたことがあるに違いありません。


かみのけ座に見えるたくさんの銀河
「かみのけ座銀河団」(国立天文台提供)

 ブラックホールは、その大きな重力のために光さえも吸い込んでします。 つまり、その名の通り「真っ黒」なのですが、どうしてそこにあることがわかるのでしょうか? それは、ブラックホール本体は見えなくても、吸い込まれていく途中のものが見えるからです。 ブラックホール近くにあるガスは、ブラックホールの周りをぐるぐる回りながら、だんだん中心へと吸い込まれて行きます。 この回転しているガスのかたまりは、見ることができるのです。

 銀河の中心にブラックホールがあることは以前から予想されていましたが、銀河はどれも私たちからとても遠いところにあるので、大口径の望遠鏡を使っても細かいことまではなかなかわかりませんでした。 それが、電波望遠鏡を使った観測により、銀河M106の中心付近で円盤状になって回転しているガスのかたまりが発見されました。 その結果、中心には大きな質量があるとわかり、超巨大ブラックホールの存在は、かなり確実になったのです。


ブラックホールを持つ銀河M106
(プリンストン大学出版局提供)

 

 他にもブラックホールを持つ銀河の候補はいくつかあります。 私たちの住んでいる「銀河系」もその候補の一つなんですよ。 これからもっと研究が進めば、あちこちの銀河でブラックホールが確認されていくことでしょう。 絶対に見えるはずのないブラックホールも工夫すれば「見える」のですから、人間の底力を改めて感じずにはいられません。 「何事もあきらめずに、頭をひねって考えれば、解決方法は見つかるのかも知れない」、そんな気にさせてくれるお話ですよね。

 

(展示担当 石原 裕子)

2003年3月4日 読売新聞福島版 「星のある風景」より