太陽系の仲間たち(3) 
〜厄災を呼ぶ星だった火星〜

2003/08/12


 

 今回と次回は地球のすぐ外側をまわる「火星(Mars)」の世界をご紹介します。

 星空の中で、火星は赤い色の明るい星として見つけることができます。この赤い色が、昔の人には不気味な印象を与え、それにふさわしい名前が付けられました。たとえば、ギリシャでは「アレス」、ローマでは「マルス」と呼びましたが、これは軍神の名前です。古代中国では、戦乱や飢餓をもたらす星という意味で「熒惑(けいこく)」と呼ばれました。

 前回触れましたが、惑星は占星術で運命を占う目印となる星でした。火星は西洋・東洋問わず、良くない運命を暗示しています。

 


スキアパレリのスケッチした火星。
黒い模様が細かにスケッチされています

 例えば東洋占星術で、為政者を表す星宿(東洋占星術で使う星座のこと)に火星がやってくると、その国が滅ぶとまで言われました。

 そんな火星が別の視点から脚光を浴びるようになったのは、19世紀後半からです。

 望遠鏡で火星の表面に見られた黒い模様を、イタリアのスキアパレリは"すじ"という意味で「キャナリ(Canali)」と名づけました。ところが、これが他国に翻訳されて伝わるにつれ、"運河"という意味の「キャナル(Canal)」という言葉に変化していったのです。

 

 ここから、火星には人工的な運河があり、それを作ることができるほどの高度な文明を持つ火星人がいると想像が膨らんでいきました。

 当時描かれた火星表面のスケッチを見ると、まさに都市の間を張り巡らすような運河が描かれています。当時の望遠鏡で、ここまで細かに模様が見られたとは思えないのですが、火星に対する夢がつまっていたといえるでしょう。

 この火星は、今年8月27日に大接近すると話題になっています。次回は、火星大接近について詳しくご紹介します。


1898年発表のウエルズ作の小説「宇宙戦争」は、火星人の地球襲来をテーマとしています。38年には、アメリカでこの小説がラジオドラマ化され、事実と勘違いした多くの人がパニックとなりました。(C)GOTO

 

(天文係 安藤 享平)

2003年8月12日 福島民友新聞 「ふくしま星空散歩」より